笑ってる?

創作サイト【神々】の日記

スローライフ

今日の出来事、本当はマーマレの方に書くはずだったんです。
単車で、赤城山に行ってきたんで。
ところが、悪いこと(?)はできないもので、キッチリ雨に降られて、ろくに走ることができなかったんですね。残念なことに。
ま、その代わりと言っちゃ何ですが、こっちに書くネタは仕入れてこられたので、まるきし無駄じゃあなかったかなと。でも、走りたかったなぁ……
 
高速を降りるなり、雨が降ってきました。
天気予報、ぜんぜんダメじゃんか、とかヘルメットの中で悪態をつきながら、県道70号を進みます。と、当初の予定の国道353号ではなくて、空っ風街道の方に入っちゃいまして。まあいいかと、そのまま走り、県道4号線にぶち当たります。
コレを左に行けば赤城山なんですが、こんな雨の中走りに行っても面白くないので、とりあえず雨宿りしようと右へ折れて県道4号を前橋の方に向かいます。そっちならコンビにでもあるだろうと思って。
 
ところが、曲がってすぐに雨脚が強くなりまして。
こりゃあいかんと、とりあえず目に付いた駐車場に入り、屋根の下で雨宿りしたんですよ。すると、俺の立ち位置が悪かったのか、自動ドアが開いてしまいます。とたんに奥から聞こえる「いらっしゃいませ〜」の声。
こりゃもう、仕方ないやと観念して、扉をくぐった奥にあったのは、風呂屋
高速で身体も冷えてるし、雨がやむまで風呂にでも入るかと、そのままカウンタで1000円払いました。
 
タオルを借りて湯殿に入ったんですが、これがまあ、なんと言うか……
しょぼっ
いまどきこんな小さい湯船の大衆浴場があるのかって感心したくなるくらい、ものすげえ寂れ具合。でもこちとら最初から温泉目的じゃないですからね。温まれば何でもいいやってんで、のんびり薬湯に浸かります。
一緒に入ってたおじさんと、「バイクかい? もう、山は走ってきたの?」「いや、降られちゃって、走ってないです」なんて普通の会話をしてから、風呂を出て、ここの食堂で早めの昼飯にします。
 
と、ここの食堂、おじさんとその母親らしきおばあちゃんの二人でやってるんですが、これがまたなんと言うか、すばらしい食堂でして。まず、いまどき喫煙可。そして、だだっ広い部屋に、17インチの古いTVがひとつ。なのに、DAMの通信カラオケは、最新っぽい派手なのが置いてある。
何より最高なのが、10テーブルくらいあるのに、メニューがひとつしかないんですよ。いや、品数じゃなくて、いわゆるお品書きが一枚しかないってコト。それを10テーブルで使いまわすんです。
 
俺がメニューを探していると、隣のテーブルのおばさんがメニューを渡してくれました。お礼を言ってメニューを眺め、食うものを決めて、注文しようと厨房を覗き込みますと、おじさんとばあちゃんがすげえ忙しそう。
苦笑いして戻ってくると、おばさんも笑ってます。
「私たちもね、まだ頼んでないのよ」
強引に注文しなくてよかった。
 
やがて手の空いたおばあちゃんが、俺のところにやってきたので、先の夫婦に先に注文してもらいます。
「ざるそばと、味噌ラーメンと、お酒をふたつ。それから枝豆と……」
おばあちゃん、ニコニコしながらハイハイとうなずいてますが、一切メモを取ってません。
大丈夫かなと思ってたら、注文をどこにも告げないまま、俺のところにやってきます。おいおい、俺の分まで一気に覚えるのかよ。やっぱ、働いてる年寄りは、若いなぁ。俺よりよっぽど記憶力あるじゃん。
「じゃ、ざるそばとから揚げと…………生ビール!
だって風呂上りだったんだもん。
雨もやまなそうだし、いいじゃん?
 
で、タバコをすいながら、しばし待ったんですが。
待ったんですが。
待ったんですが。
 
待てど暮らせど、ビールが出てこない。
向こうのお酒はすぐに出てきたのに、ビールのビの字も出てきやしない。でも、おばあちゃんは忙しそうだし、ほかにも何人か客はいるから、仕方ないなぁなんて考えてたんです。なにより、普段ならビール待たされたら相当頭に来るんですが、ここの雰囲気がね。
まさに、スローライフ
時間がゆっくり流れてて、なんかこないならこないで、ほかの事でもしようって気になるんですよ。そんで、地図眺めながら、今日はともかく今後いけそうな面白い道を探してたんですね。
そしたら、隣のおばさんと、その隣にいたおばさん二人の女三人が、話しを始めたんです。おじさんは酒飲んで寝ちゃってるし、注文したものも、当然きてない。んで、俺も効くともなくその会話を聞いてたんですが。
 
「ここねぇ、今のオーナーが三代目なのよ。一代目でもあるんだけどね。前はよかったんだけど、二代目がねぇ。ぜんぜん知らない人なんだけど(多分、地の人じゃないって意味だと思う)、その愛人が仕切っててさ(フロア係をやっていたと言う意味らしい)」
「そうそう、それでその愛人のせいで、みんなこなくなっちゃったのよ。(多分違うと思う。しょぼいからじゃねぇかなぁ)それでまた一代目が経営者になったんだけどね。でも、今の人たちはみんな知らない人ばかりだから、いやなのよねぇ」
 
おばさん二人のおしゃべりに、夫婦の奥さんの方もらんらんと目を輝かせて聞き入っています。だんなはいびきをかいて寝てます。俺はもう、地図を開いたまま、耳がそっちの方に反り返るくらいダンボ状態。
そんな風に裏の事情に聞き入っていると、おばあちゃんがようやくざるそばとから揚げを持ってきてくれました。しかし、一番大事なものがありません。ああ、コレは完全に忘れちゃってるなと思った俺は、ビールもらえますか?と丁寧に聞きました。
その刹那。
おばあちゃん、クチをあんぐりと開けて、俺の顔を見ます。そして
 
「あらあら、ごめんなさいねぇ。忘れちゃってたわ。本当にごめんなさいねぇ」
 
と、こちらが申し訳なくなるくらい、あやまります。文句言わないで、本当によかった。
すぐに生ビールを持ってきてくれると、枝豆ときゅうりのおしんこもついてました。お通しかなと思ってると、「これ、よかったら食べてね」とおばあちゃん。ビール遅くなったお詫びなんでしょう。
俺はあったかな気持ちになって、ビールを口に運ぼうとしました。
すると、反対側にいたおじさん(夫婦のだんなとは違うヒト)が俺を見ながら立ち上がり、声を上げて近寄ってきます。
 
「おにいちゃん、ダメだよ。ここのビールのうまい飲み方を教えてやる」
 
と言うなり、グラスを持ってこいと言います。なんだろうと思いながらグラスを持ってくると、おじさん、生ビールのジョッキからグラスにビールを注ぎまして、俺の顔を見てにやっと笑いました。
 
「ばあさん、ビール注ぐの下手だから、泡が全然ないんだよ。だから、こうやって自分で泡を立てて飲むんだ。まあ、その分、量が多いから文句は言わないけどな」
 
だそうで、なるほど、確かにジョッキのビールには泡が立ってません。おそらくおばあちゃんは、ビールサーバーの取っ手を逆に押すと泡だけ出てくる、とかのシステムを理解してないんでしょうね。それがすごくそのおばあちゃんらしくて、可愛らしい。
しかも、飲んだくれっぽい地元(ばあちゃんが名前を呼んでた)のおっさんも、それを理解し、文句を言うどころか「泡がない分、量が多い」なんて言って許してるところも、粋でいいなと思いました。
まあ、おっさんの場合はもしかしたら、「泡が立ってないと本気ですごく量が多く入ってる」と思い込んで可能性もありますけどね。でも、そこで「泡が消えたらその分、水位(ビール位)があがるじゃん」なんて無粋はナシです。気持ちの問題ですよ。
 
そんなほんわかした空気とビールのおかげで、なんだか睡魔が襲ってきまして。
うとうとして起きたら、軽く午後3時近く。俺は赤城くんだりまで、ビール飲んで昼寝に来たのかって話ですよ。窓の外を見れば、雨も上がってますし、道路は何とか乾いてるみたい。てんで、風呂屋を出ますと、バイクにまたがります。
それから、このことを日記に書こうと思い、改めて店を振り向くと。
 
 
 
 
 
 

 
や、太陽殿って……
 
結局ほとんど峠を攻められず、帰りは渋滞に巻き込まれてしまいましたが、これはこれで面白い休日でした。雨はきっと、ズルして練習走行なんて使用とした罰なんでしょう。でも俺があんまりしょげてるもんだから、お天道様も気の毒になって、あんなステキな人たちに会わせてくれたんでしょうね。
 
最後に、おばさんの一人が言ってたセリフを。
 
「なんで私がここに来るのかわかる?」
「由緒正しいとか? 薬湯の効果が高いとか?」
「違うわよ、空いてるからに決まってるじゃない! まあ、今日は混んでるけど
 
 
 
 
 
 

 
おばさん、今日のお客、俺込みで5人しかいないよ?
普段は貸切なのかなぁ……