笑ってる?

創作サイト【神々】の日記

悲哀の大黒柱

整骨院の店舗は賃貸です。
当然、大家さんがいるわけですが、その大家さんが来まして。
 
「先生、俺の足さー。変形性足関節症なんだって」
「ありゃ、そうなんですか」
「それでさー、あんまり痛いから、手術しようと思ってるんだけど」
「う〜ん……」
 
変形性足関節症で手術ということは、足関節固定術なんです。つまり、足関節がまるっきり動かなくなるんですよ。ボルト入れて固定しちゃうわけだから。
ちょっと考えても、かなり熟考を要する類の決断なのはわかるでしょう?
もしかしたら大家さん、その辺わかってないのかなと思いまして。
 
「関節を固定すれば、確かに今この瞬間の痛みは緩和される可能性が高いです。でもね、足の関節が動かなくなっちゃうんですよ? 右足だけ細くなっちゃうし、ひざや足の裏、股関節から腰まで負担がかかるのは、間違いないです。長い目で見たら、俺個人としては、あまりお勧めできないですね」
 
大きな声じゃ言えませんが、その診断だって絶対だとは言い切れないわけですし、場合によっては病院を変えて、もう一度診てもらってからでも遅くないと思ったんですよ。
骨折の固定がはずれてから、関節拘縮で可動域が制限されるだけで、あれだけ日常に影響が出るんですから、一生固定なんて話になったら、そりゃ影響は半端じゃないわけで。
その上、手術ってコトは身体にメスを入れるわけですから、その傷口が数年傷むとか、よくある話なんですよ。実際、俺の両足にも何本か手術痕がありますが、いまだに冬になると痛むことがあります。
 
「とにかく、こういうことはあわてないで、よく考えて決めるべきだと思いますよ? 後で歩けなくなったなんて話も、ありえないわけじゃないですから」
「でもさー、仕事できないんだよ」
「テーピングとか、装具で固定するって手もあります」
「安全靴はけないとさー」
「いや、仕事は確かに大事ですけど、一生のことですから」
「今のままじゃ、クビにするなんて言われるんだよね」
「そりゃ、労働基準法に抵触するんじゃないですか? 変形性足関節症だとして、本人のせいじゃない病気なワケだから、休職とかならまだしも、いきなり解雇っておかしいですよ」
「まともな会社じゃねーからなー」
「ま、そんな話もよく聞きますけどね。でも、自分の身体のことだし、将来のことまで考えると、よくよく検討してからがいいと思います。第一、家族だって心配するでしょう?」
「いや、それがさー
 
家族会議で、固定しちまえって話になってさ」
 
まず、家族をどうにかした方がいいよそれ。