笑ってる?

創作サイト【神々】の日記

謎の老人

数年前からのことなんですが。
仕事をしていると、整骨院の外から(ウチはガラス扉なので双方向から見える)こっちをガン睨みしてる老人がいまして。目を合わせてもそらすことなく、めっちゃ睨んでるんです。ま、相手は老人なのでこちらも穏やかに笑顔で会釈したりするんですが、イッコも効き目なし。
彼はだいたい月曜日とか火曜日あたりに現れ、こちらを一二分ほど睨んだあと、おもむろに踵を返して帰ってゆきます。自転車の時もあれば、徒歩の時もあるんですが、基本的に行動は変わりません。そして理由は一切わかりません。
 
俺は普段、暇なときは入り口を背にしてPCに向かっているので、彼を見つけるときはいつも治療中なんです。なので表に出て「なんですか?」とか聞くこともできす、かと言って怒るでもなく、「一体彼は、何だってあんなに俺を睨むんだろう」と不思議に思っていたんです。
そのうち、彼が睨んでいるのは俺だけじゃなく、アチコチで同じコトをしているんだという情報が入ってきまして。いよいよもって彼の行動が不思議で仕方なくなります。寝れないほどではないですが、彼の姿を見るたびに、小一時間は考えたりしてまして。
 
ところがその疑問が最近、患者さんによってようやく解き明かされました。
 
「ありゃ、あのじいちゃん、また睨んでるよ。何なんだろう?」
「え? ああ、あのおじいちゃんか」
「知ってるの?」
「近所なんだけどね、息子さん夫婦が家に居る間は普通だったんだけど、息子さんがおうちを買って出て行っちゃってから、ちょっとおかしくなっちゃったのよ」
「へぇ……」
「お孫さんが可愛くて可愛くて仕方なかったもんだから、出て行かれちゃってから別人になっちゃって。週末、お孫さんがやってくるとウソみたいに元に戻るんだけど、孫さんが帰っちゃうと、またおかしくなっちゃっちゃうんだよね」
「おかしくなっちゃう?」
「そう。ああやって、お孫さんを探しに出かけちゃうの」
 
それから俺は、彼と視線を合わせることが出来なくなりました。
視線をそらし、心の中で早く次の週末が来ることを祈るだけです。
彼は今も、孫を探して近所を彷徨(さまよ)っています。