笑ってる?

創作サイト【神々】の日記

終わらない歌を歌おう

患者さんに、おしゃべりなおばさんがいまして。
元々おばさんてのはおしゃべりな生物ですが、この方はその中でもかなりのツワモノ。マシンガントークを誇る俺でさえ、口を挟むのに苦労するくらいの早口なところへ持ってきて、話題がアチコチ飛びまくる上に、ヒトの話を聞かないという、ヘレンケラー真っ青の三重苦。
いや、苦なのは聞かされる方なんですが。
 
「先生、ちょっと聞いてよ。ウチの息子がね、運動公園で怪我をしたの。息子って言っても、もう40歳なんだけど、ああ、そう言えば先生も同い年だったわね。今年厄年じゃない、気をつけなさいよ? 神社で厄払いしてもらうといいわね。このあいだお父さんと旅行に行った温泉に、そう言えば神社があって……」
 
(このまま、どこまで話がそれていくんだろう?)
 
と、興味深く話を聞いてたんです。
ところが、いつまでたっても話が終わらないんですよ。本人の治療も終わって、次の患者さんをはじめても、まだ玄関で立ったまま話してるんです。
 
(このヒトは、このまま帰らないで、延々と話してんだろうか? もしかしたら、俺はこのまま帰れないのだろうか? 整骨院を閉めて、電気を消して、カギをかけてもまだ、ずっとそこで話をしてるんじゃないだろうか?)
 
などと、ちょっとホラーな具合に心配していると。
 
「……って言うわけなのよ。あら、やだ。こんな時間。息子が帰ってきちゃうわ」
 
やれやれ、どうやら話が終わりそうだと胸をなでおろした瞬間。
 
「そうそう、息子って言えば、先生聞いてよ。あの子、運動公園で怪我をしてきたの」
 
えぇ? 無限ループ?
 
一瞬、ホンキで背中が寒くなりました。