笑ってる?

創作サイト【神々】の日記

雪の深夜

ぱーん! ぱぱーん!
盛大なクラクションの音。
「キャーッ! キャーッ!」
ラクションより大きい女の悲鳴が、寝静まった柏の街に響く。
俺は反射的にモニター右下の時計を見た。
液晶画面には、2:00の文字。
そこでもう一度、悲鳴とクラクション。
 
俺の住むマンションのハス向かいにはヤクザの事務所がある。
日中でも時々、荒っぽいトラブルがあったりする場所なので、悲鳴やクラクションには慣れているが、だからといって知らん振りを決め込むほど、俺の好奇心は枯れていない。立ち上がった俺は、PCの前を離れてベランダに続く大きな窓を開ける。
びょう。
雪まじりの冷たい風が、暖房で暖まった空気を切り裂くように吹き付ける。
サンダルを引っ掛けてベランダへ出ると、5階の上空からそろそろと顔を出し、騒がしい道路を見下ろす。高級そうなセダンがハザードを焚いて停まり、傍らに身体の大きな男が背中を丸めるようにして車内を覗き込んでいる。
男は助手席のドアを開け、白髪まじりの頭を突っ込んだ。
(拉致だろうか。それとも……)
考えながら見ていると、女の悲鳴とは違った怒声。
「……てめぇ○×▽@!……いいかげんに×○@▽!」
大声で何事かを叫んだあと、男はくるりと振り向いて歩き出した。
するとまた、ぱぱーん! クラクションが鳴らされ。
「アナタズルイヨ! ズルイヨ!」
明らかなカタコトで女が叫ぶ。
 
「ああ、痴話ゲンカか」
室内に戻って窓を閉めたところで。
俺は今日(正確には昨日)が何の日かに気づいて苦笑した。
「おっさん、ハッピーバレンタインとはいかなかったな」