笑ってる?

創作サイト【神々】の日記

天国の扉

掌編「伝説の男」をお届けします。
ようやく、明るめの話が書けました。
ひとえに「ガッツ」のおかげです。ビバ、ガッツ。




嫁さんと一緒に、晩飯を食いに、柏まで出ました。

ステーションモールをうろうろしながら、店を物色します。が、ハラが減ってるんで、なかなか正常な判断が下せません。
と。
嫁さんが一軒の店の前で止まります。


「ここは?」
「あん? なんだ? ビュッフェ? ナニ言ってんだよ。日本語で書けっての」
「だから、食べ放題ってことだよ」
「ふ〜ん。でもなぁ、せっかく出てきて、食べ放題のうまくもない料理食ったてなぁ……」
「でも、ほら」
嫁が指し示す場所には、燦然と輝く文字列が鎮座していました。


「+1000円で飲み放題」


「はい、決定」
サクサク店に入りますってえと、前払いで料金を支払います。飲み放題料金を払って、おねえちゃんが案内するままに、店の奥のほうへ。
わお、すばらしい場所じゃないですか。
「アルコールコーナーのまん前だからって、ソコまでうれしそうな顔しなくても」
うれしいんだもん。


早速、カウンターに詰め寄ると、兄ちゃんにオーダーします。
生ビールを飲んで、生ビールを飲んで、さて、何にしよう。
「いきなり2杯空けてから、さらにアルコールドリンクのメニューを見ない! なんか食べな」
「わかった、喰うよ。うるさいなぁ……って、おい! マメがあるぞ。レッドキドニーが」
「ああ、サラダ用においてあるんだね」
「カレーもあるぞ! マメにカレーかけても怒られないかな?」
苦笑しながらうなずく嫁さん。マメ、カレー、あとなんかイロイロ喰い放題。しかも、かなりうまいんですよ。喰い放題だからって、手を抜いてないのがうれしい。
でもまあ、そんなモノ所詮二の次なんですが。
嫁さんが食い物を取りに出た隙を見て、カウンターに駆け寄ります。駆け寄るったってまん前の席ですから、3歩くらいなんですが。


「もう、ビールはいいや。日本酒ください。サケ」
「え〜と。どのくらいいります?」
まさに飲み放題らしい質問ですね。普通の店では考えられませんよ。
「いっぱい!」
お兄ちゃん、苦笑しながらなんとロックグラスになみなみとついでくれます。
「おぉ! ありがとう。ところで、ほかに誰も来ないけど、アルコール飲み放題って、この時間は珍しいのかな?」
「いえ、どの時間でも、ほとんどいらっしゃいません」


まったくね、柏市民は愚民ばかりですよ。
バカじゃねえの? おまえら。
ビール、焼酎、ウイスキー、カクテル、ワイン、一通りのサケがおいてあって、飲み放題ですよ? カラオケボックスみたいにうす〜いサケが出てくるんじゃなくて、目の前でボトルでついでくれるんですよ?
ワインに至っては、10種類近い銘柄ですよ?
それで+1000円ですよ? 1000円。
それをチョイスしないで、パスタだのなんだのオサレな食い物だけ平らげて帰る?
あーもー、信じられない!
札束でケツを拭くに等しい、暴挙ですよこれは。


ブツブツいいながら日本酒を飲んでいると、嫁さんが鬼のような顔をしてます。ま、言ってもここまでくりゃ、カンケーねーです。
そういう訳で、またもカウンターに駆け寄ります。3歩で。
「こんだね、ジンください。ジンスト」
「はい……これでいいですか?」


思わず、愛してるとか口走りそうになりましたね。


ロックグラスにクチキリいっぱい注がれたジン。
幸せ。極楽。パラダイス。
鬼の首取ったような顔で、嫁さんに見せびらかします。
「見ろ! この量! これがデフォルトなら、この店のオーナーにはノーベル賞をやるべきだ」
「どうせ、飲み放題なのに」
「いいんだよ、この、心意気がうれしいんだ」
「ああ、たぶんね……」
いいながら嫁さん、にやりと笑って。
「なんども注ぐのが面倒だったんだよ、きっと」




それでも、いいのだ。