嫁さんがジムカーナに出まして、商品をもらってきたんです。ジムカーナってのは狭いところでテクニックを競うタイプの、タイムレース。無論、四輪のほう。
んでね、なにやら微妙な外国製のホットカーラみたいのをもらってきたんですよ。ムラサキを基調にした、サイケなパッケージの、いかにも向こうっぽい製品。
本人、カケラも使う気がないらしく、開けないでほっぽらかしてあったのですが、それに目をつけた人がいました。義母です。
「おや、これはなに?」
「もらったけど使わないの」
「それじゃ、あたしにおくれ」
「いいけど……」
嫁がすべて答え終わる前に、義母さんはバリバリとパッケージを破り始めます。その所業、まさに電光石火。程なく姿を現す、怪しいホットカーラ。
「ありゃ、かあちゃん、説明書が全部英語だよ」
義母さん、聞きゃしません。
「と思ったら、日本語の説明書がある。何々……わ、ダメだこれ。なんか使い方にコツがあるんだって。最初はきれいに巻くの難しいみたいだよ?」
「大丈夫、大丈夫」
ホントに大丈夫かなぁと思って、その説明書を見てみますと。
(このカーラを使用するにはコツがいります。出来るようになるまでは、二人がかりで使用してください。それでも毛がカーラに絡まる場合がありますので、その際はあわてて髪を切ったりせず、おちついてこの説明書に従い、下図のように分解してください)
カケラも大丈夫じゃないです。
突っ込みどころ満載じゃないですか。毛が絡まった場合は分解しろとか、落ち着けとか、親切の方向があまりにアサッテな説明書。なぜに最初から負け戦(いくさ)ですか?
とまあ、メカ好きの俺でもなかなか難解な分解図を見ながら、あきれつつ二人を眺めていますと、義母さん、なにやら引っ張り出しました。
「大丈夫だよ。ほら、使い方のビデオがついてる」
残念ながらそのビデオはすべて英語です、義母さん。
それでもうれしそうにカーラを抱えて帰る義母の後ろ姿を見ながら、俺は嫁さんに言いました。
「なあ、本当に大丈夫かなぁ?」
「大丈夫じゃないと思うけど、もういい。めんどくさい」
「でもさ、義母さん、携帯もろくに使えないんだぞ? もしかしたら毛が絡まっちゃうかもしれないじゃないか」
「そしたら、切るでしょ」
いや、電話がかかってくると思うな。
「助けて」って。
もしかしたら、「HELP!」ってかかってくるかもしれない。
英語のビデオ見た後だけに。