笑ってる?

創作サイト【神々】の日記

恋する神々II

こないだ「映画でも小説でも2はイマイチ」言っときながら。
俺のせつない悲恋の数々を紹介する【恋する神々】シリーズ第二段です。ちなみに、第一弾はこちら。ハンカチの準備はいいですか?
  
【恋する神々】小学生編
 
小学校のときは、みんなそうだと思うんですが。
やっぱり俺もそうでした。なにって恋の始まるきっかけ。そう、みんな無言のうちに知ってる、あの黄金率。クラス替えが恋の始まり。小学生にとって違うクラスというのは、異次元ですからね。
クラスが変わった段階で、好きな子も変わる。低、中学年までは、そんな感じでした。本当の意味で、異性を愛しく思ったのは、六年生になってからでしょう。
 
で、問題の六年生の時。
ステキに儚げな女の子、Nちゃんと同じクラスになります。
同じクラスになって早々、恥ずかしくてトイレに行きたいと言えず、おしっこを漏らしてしまったような、引っ込み思案な子なんですが、そんなところも含めて、俺の心をがっちりキャッチ
保護欲を掻き立てられる女性に弱かったんですね、この頃から。
ところでその頃、五年生のときから仲のよかったS野君という友達がいました。結構遠いのにもかかわらずよく、俺の家だの向こうの家で遊んだんですが、それはさておき。
 
遠足です。
俺はNちゃんとは違う班でした。向こうは5班、俺は6班。ほとんどの班は偶数なのですが、5,6班は奇数。当然、バスの席割りのとき、5,6班のはみ出し者が、隣同士になるわけです。
俺はここに、一縷の望みをかけていました。
6班の班長特権を生かし、しかも表面上は「班員がかわいそうだから、俺があぶれる」てな名目上の元、まんまとはぐれ席を射止めます。狡猾と言うなかれ。それだけ必死だったわけです。
そして、あとは5班の席割を待つだけ。
まさに緊張の一瞬。
やがて、5班の席割りが決まります。
俺の隣は……
 
ああ、神よ……
 
心からの感謝をささげます。
 
黒板に書かれた席割り表。
俺の隣には、Nちゃんの苗字が燦然と輝いているじゃないですか。強く想い続ければ、いつかそれは届く。まさに少年ジャンプは正しかったわけで、俺は異常なテンションで遠足を心待ちにしました。
 
そして当日。
珍しく、ウキウキとバスに乗り込んだ俺。車酔いをするので、本当ならモノすげえ凹んでいるはずなのですが、恋の力の前に、車酔いの恐怖など無力です。愛こそすべて。
サクサク席に座り、Nちゃんを待ち受ける俺の前に、S野君がやってきます。が、今日の俺は、Nちゃんの半身。ノーNちゃん・ノーライフ。仲良しS野君も、今は邪魔な存在です。
「かみ君、おやつナニもって来た?」
(おやつなんかどうでもいいんだよ。Nちゃん来るんだからそこどけ)
普段は仲がいいのに、まさに、恋する者の身勝手さ。
俺はやきもきしながら、全力で無言のそこどけコールを繰り返します。その姿から言って、その邪念から言って、まさに呪詛と呼ぶにふさわしいモノだったでしょう。それもこれも、愛ゆえに。
 
そこへついに!
Nちゃんが登場します。
ああ、相変わらず、なんと言う可憐さ、清楚さ、儚さでしょう。俺のボルテージは一気に臨界点に達します。もう、こうなったら無言のアッピールなんてしているヒマはありません。
「S野君、○川さん(Nちゃんの苗字)きたよ?」
「え?」
俺は、自分の隣、S野君が座ってる席を指しながら
「○川さん、ここの席じゃなかったっけ?」
じゃなかったっけもクソも、ここ以外ないわけですよ。あるとしたら、あとは俺の膝の上だってくらい、もう、彼女の席は俺の隣以外ありえないわけです。なぜならラヴイズオールだから。
と。
S野君、俺の顔を見てにやりと笑い、次の瞬間。
「○川さん、俺と席代わってよ」
 
 
 
 
 
殺意。
あの時、俺の胸に芽生えた感情は、どう言いつくろっても、こう呼ばれるしかないモノだったでしょう。デスノート持ってたら、間違いなく彼の名前書いてました。瞬殺ですよホント。
Nちゃんは、おとなしい彼女らしく、黙ったまま逡巡しています。
同時に俺の脳みそは、10万rpmくらいのイキオイで高速演算を始めました。なんとしても、彼女を隣に座らせなければならない。ただし、俺がNちゃんに惚れてる事がバレないように
相反する困難な命題を解くために、俺は黙って事の成り行きを見守りながらも、アレコレと言い訳を考えてゆきます。もちろん、口から先に生まれてきたと言われる俺様。
小学校六年の段階で、ムダに弁の立つクソ生意気なガキだったわけで、その能力があれば、何かしら『やむをえない事情』と言うものを、その場で考え出すことは可能だったはずです。
あと、もう少しだけ時間があれば。
 
「あー、いけないんだーS野君。勝手に席を代えちゃダメなんだよ?」
 
活発なSさんが、ナイスフォロー。
しかし、あとから考えれば、これがいけなかった。
これによって俺は、完全に思考停止してしまったんです。『OK、この路線で押していけば、遠からず神の声(先生の言葉)によって、秩序は保たれるだろう』と、完璧に安心してしまったのです。
だとすれば、騒ぎを大きくする方がいい。むしろ、大きくすべき。
そう考えた俺は、勢い込んで言いました。
 
「えー、遠足なんだから、そんなのどうでもいいじゃん」
 
いわゆる心理的アリバイ工作です。
ここでS野君と座りたがっておけば、俺がNちゃんにベタ惚れな事に、みんな気づかないだろう。俺がそう考えたとて、誰が責められるでしょう。そして事態はまさに、俺の思うまま進むはずでした。
心理的アリバイも完璧に張ったし、あとは、鶴の一声を待つだけ。そんな状況下で、ついに事態を重く見た担任が、わいわいと騒ぐ級友を掻き分けてやってきます。
 
「なんだ? 何を騒いでるんだ?」
(きたきた。これで安心だ)
 
ほくそえむ俺。
事態を説明し始めたのは、活発なSさん。S野くんは少々バツ悪げに下を向いています。俺もそれに習って、下を向いたままいれば、きっとNちゃんの隣で、最高に幸せな遠足ライフを満喫できたでしょう。
ところが、緊張の糸が完全に緩んだ瞬間。俺のドタマは、その武器たるべきクチに、後悔してもし切れない、あまりにも残念なセリフを吐かせたのです。ホント信じられないウカツ。
 
「先生ぇ、遠足なんだからいいでしょう? 俺、S野君と座りたい」
 
あくまで『俺は嫌々Nちゃんの横に座るんだ』と言う態度を決定付ける、より強固な状況証拠。『硬派な俺』を演出するための、駄目押しのセリフ。もう、九分どおり彼女の横に座れるからには、もう少し保身のための演出が必要。
多分そこまでは、考えてなかったでしょう。
ただ、無意識ながら、それに近い気持ちが働き、俺に上記のセリフを吐かせたのだと思います。ところが、担任はバンカラでさっぱりとした気性の九州男児。しばらく考えたあと、にっこり笑ってうなずきました。
 
 
 
まあ、いいか。そのかわり静かにするんだぞ?」
 
 
 
 
 
 
 
ホワイトアウトかみヘッド
うれしそうに笑うS野君の声に、あいまいに相槌を打ちながら、俺は、向こうの席へ歩いてゆくNちゃんの後ろ姿を、ただ、呆然と眺めているしかありませんでした。
 
『過ぎたるは、なお、及ばざるが如し』
しかし、これほどの大失敗を犯しても、俺がこの先人の言葉を本当に理解して、実生活に生かしてゆくようになるには、この先20年を待たなくてはならないのです。
 
かみは泣かない。
 
 
恋する神々IIIへ