朝、やってくるなり。
まこと*1がにやにやと笑ってます。
こんな顔をしているこの子が言い出す話には、たいていロクなことがありませんから、なにやら、すでにもう嫌な予感はしてるんですが、知らんふりを決め込むわけにもゆかないので、仕方なく、聞きます。
「あんだ、その顔は? どーせまたくだらない……」
「先生、先生! おにいちゃん*2から電話来ました?」
「アニキから? いや、こねーな」
「そーすか、じゃあ、これからですよ」
「だから、何が?」
「先生、俺は今年無理なんで、一緒に来年買いましょうね?」
「だから、何を?」
「ポケバイ」
「ポケバイ〜?」
「なんと、新車が3万で買えるんですよ! おにいちゃんと友達は、もう買っちゃったらしくて、すでにメンバーが三人いるらしいんです。ね? おもしろいでしょ?」
まあ、非常に、ひっじょーーーに面白そうな話であることは認めますが、アニキもまことも、おそらくわかってない重要なことに気づいた俺は、そこを取っ掛かりに、諭してゆきます。
「あーダメだそれ。いいか? 確かに3万のポケバイは安い。破格と言っていい。だけどな、それでいったい何をする気なんだ? 飾っておくのか?」
「みんなでレースですよ。決まってるじゃないですか?」
「だろう? だとしたら、多分、続かないぞ?」
「なんでですか? 面白いじゃないですか」
「それは認めるがな。バイクのほかに、革ツナギを買わなきゃならないだろ? それから、フルフェイスのヘルメットとかも、お前、もってないだろう?」
「えー、革ジャンと半ヘルとかじゃ、ダメなんですか?」
「そんなカッコでモータースポーツをやらせてくれるサーキットは、きっとないと思うぞ。単車には、必ず転倒が付きまとうからな。カートみたいなわけには行かないだろうよ」
「ツナギかー……ヘタしたらバイクより高くなっちゃうなぁ」
「サーキットの走行代だってタダじゃないし、おまけに、ポケバイは毎回、オイルとガソリンを混ぜた混合ガソリンで走るんだぞ? そんなめんどくさいこと、出来るか?」
「そーか……う〜ん、ちょっとヤル気がそがれた」
ま、現実的に遊ぶなら、『ちっちゃいもん倶楽部』くらいがちょうどいいんでしょうね。あとは、オフロードのちっちゃい子供用みたいなヤツで、川原を走るとか。
「気軽にモータースポーツを楽しむには、日本はまだまだ、設備も文化も幼いってコトだな。残念だが、コレが現実と言うもんだ」
「そうですねー。あ、先生。あとで、SDR乗らせてください。先生が、あんまり面白い、面白い、言うもんだから、乗ってみたくなっちゃって」
「おーいいぞー」
とまあ、話は終わったんですが。
やられた。
俺の中で、話が終わらないよ。
とりあえず、今年中は我慢してみようかな。