笑ってる?

創作サイト【神々】の日記

きょうけん

整骨院の近所に、キンタという犬がいます。
患者さんの飼ってる小型犬で、キャンキャンよく吠える元気なアホ犬。病気で後ろ足を一本切り落としてるんですが、ムダに元気でぴょンぴょン跳ね回るので、見てて悲壮感がなく、すげえかわいい。
特に最近は、またどっか怪我したらしく、傷をなめないためのエリザベスカラーをつけてるんで、動きづらいらしく、軽くへこんでイライラしてるのが手に取るようにわかり、それがまた可愛いんですよ。
んでね、キンタの家の門が整骨院から見えるんですが、ここに郵便屋さんがやってくるわけです。
郵便屋さん、新人なんですかね、キンタのことを知らなかったらしくて、ものすげ油断しながら門を入っていったんですよ。
 
わんわんわんわん!
吠えながら駆けてきたキンタ。
ビビる郵便屋さん。
キンタ、かまわずに飛び掛って、彼にとっては知らない不審な侵入者をガブリっ! ってしようとして、エリザベスカラーにじゃまされて、もんどりうってすっ転がる
 
キンタ会心の一撃を完璧に跳ね返す、恐るべき敵。
普通なら軽くビビりが入るでしょうが、キンタはそんなヤワじゃありません。体勢を立て直すと、エリザベスカラーを振り立て、郵便屋さんに向かって身構えます。
エリザベスカラーがライオンの鬣(たてがみ)にさえ見えるほど、その姿は雄雄しく勇敢です。
と。
「キンタ!」
あわてて出てきた飼い主の患者さん、キンタを叱り飛ばして郵便屋さんに平謝り。キンタ、しぶしぶと引き下がりますが、その様子は明らかに不満げ。もう呑むなと言われた俺より、不満そう。
おとなしく家に引き下がりながらも、その後ろ姿には漢(オトコ)を微笑ませる、力強い何かが感じられまして、俺は整骨院の中でバカ笑いしながら、心の中でキンタに敬礼しました。
 
強い犬と書いて、強犬(きょうけん)キンタ。
そろそろ12〜3歳になるはずですが、その勇気には微塵のかげりも迷いもありません。俺も彼に習って、艱難辛苦を強い勇気を持って切り抜けられるような、本当の男になろうと思います。