笑ってる?

創作サイト【神々】の日記

モーターブルー(3)

 
モータサイクルは、思いのほか原形をとどめていた。
 
ほっとして跨(またが)ったとたん、しかし、身体の方が悲鳴を上げる。
怒りや驚きで忘れていたが、とんでもない速度で転倒しているのだ。
さいわい骨折はないようだが、全身打撲だけは免れ得ない。
 
原形をとどめてるといえ、愛機の方も散々な状態だ。
外装が割れ、フレームがへこみ、レバーやステップもひん曲がっている。
だが、ゆっくり走れば何とか帰れそうだ。
 
イズモはガンテツに向かって、笑って片手をあげて見せると。
壊れた愛機をだましだまし、家に向かって走り出した。
 
いつもなら、数十分の道のりに一時間を費やして、ようやく帰宅する。
 
イズモの接近にともない、自動シャッターがゆっくりとひらいた。
高級オートモビルの並ぶ大きな厩(うまや=ガレージ)へ入ってゆく。
ガレージ中では、家令の西茨城(にしいばらき)が待っていた。
 
ライトに浮かび上がった西茨城は、おだやかな表情でイズモを迎える。
 
「お帰りなさいませ、若さま。お父上がお呼びです」
「ああ……なるほど。さっそく父の耳に入っているのか」
 
ため息をついて肩をすくめる。
問いとも独り言とも聞こえるその言葉には返事をせず。
西茨城はイズモの身体を心配する言葉をかけた。
 
「お身体の方は、大丈夫でいらっしゃいますか?」
 
イズモが怪我をしていた場合、準備をしなくてはならない。
 
「打撲はしてるみたいだけど、とりあえず今は大丈夫だよ、ありがとう」
 
使用人の気づかいを、当然として気にも留めない他の兄弟に比べ。
この次男坊は相手が誰であれ、等しくていねいに接する。
当主の息子であるという体裁のため、言葉づかいこそ多少ぞんざいだが。
 
簡単に言えば、ありがとう、ごめんなさいを、きちんと言えるのだ。
 
社会的地位が上がるほど、金や権力を持てば持つほど。
ひとは傲慢になり、当たり前の言葉が出なくなる。
しかしイズモは、自分を見失ってはいなかった。
 
三輪と言う家の力を、自分の力と勘違いするほど、愚かではなかった。
 
だからこそこの次男坊は、三輪家の使用人たちに人気があった。
 
家令として、使用人のトップに立つ西茨城も、それは同じだ。
さいころから知っているこの坊ちゃんが、まっすぐ育っていることに。
父親のような気持ちで、喜んでいたのだった。
 
もちろん、決して口に出すことはないのだが。
 
 
 
「若さま、それではお父上のご用のあと、医務室へいらしてくださいませ」
 
三輪くらい強大な華家ともなると、屋敷の中に医務室がある。
常に家人の病気や負傷へ対応できるよう、当直の医師がひかえている。
本来ならすぐにでも医師にかかるところなのだが、今はそうもゆかない。
 
絶対権力者である当主の意向が、すべてに優先される。
 
「わかった、ありがとう。父は書斎かな?」
「はい。先ほどからお待ちです。のちほど珈琲をお持ちいたします」
「いや、今日は酒にしてくれないか」
 
思いがけないイズモの言葉に、一瞬、西茨城はおどろいた顔を見せる。
優秀な家令である彼にしては、たいへん珍しいことだ。
 
酒神に仕える神官の家に生まれながら、イズモはほとんど酒を飲まない。
儀礼の席で、しかたなく口をつけるていどだ。
その彼が自分から酒を飲むというのは、それほど珍しいことなのである。
 
西茨城はいそいで表情を戻すと、「かしこまりました」と頭を下げる。
 
酒の種類は聞かない。
酒神神官の家に生まれた男子だから、酒に詳しくないわけではない。
だが、好んで飲まない以上、好みの酒というものがイズモにはない。
 
西茨城は話の邪魔にならぬよう、あまり強くない酒をすすめるつもりだった。
イズモが飲みたいと言い出したら、薦めようと決めていた酒があるのだ。
そしてイズモも、この家令に全幅の信頼を置き、細かいことは言わない。
 
ただひとこと、「よろしく頼む」とうなずいた。
 
 
 
ふたりは長い廊下を並んで歩き、書斎の扉前に立った。
西茨城がノックし、「若さまをお連れしました」と落ち着いた声で知らせる。
すると中から「入れ」と応(いら)えがあった。
 
南方が原産の、珍しい巨木の一枚板で作られた、精緻にして重厚な扉。
それが、西茨城の手によって、ゆっくりと開かれる。
扉を開けた家令は、礼をして一歩下がった。
 
「失礼します、父上」
 
優秀だが華家らしく尊大で、なのに父親にだけは頭の上がらない兄。
わがままなくせに小心で、父の前ではビクビクとおびえる弟。
そんな兄弟とは違い、いくらか露悪的ではあるものの真直に育った次男坊。
 
彼はなんの気負いもなく、きわめて自然に父親の前へ立った。
 
父親である三輪の当主は、もっとも目をかけている息子を、じろりと見る。
苦虫を噛み潰した、とはまさにこのことだろう。
息子を見たまま、しばらく黙っている。
 
息子の方は、言われる内容はわかっているが、知らんふりで立っていた。
 
華家では基本的に、乳母が子供を育てる。
そのため、どうしても親子の情愛が薄くなる。
いきおい、父親の息子への目線は、冷ややかで厳しくなりがちだ。
 
三輪の当主、三輪ランザンは、次男イズモに目をかけていた。
しかし、それはあくまで、「当主にふさわしいか」という基準でのものだ。
そして今、その視線には明らかな非難の色がある。
 
身体を心配してではなく、「当主候補でありながら」といった類のそれが。
 
「まったく……バカなことをしでかしてくれたものだ」
「父上、わたしは被害者なのですが」
「事故など、どうでもいい。皇家と悶着を起こすとは、考えが浅すぎる」
「わたしは彼女が皇家の血族だと、まったく知りませんでした」
 
父は、あわや死にかけた事故だったというのに、「どうでもいい」と言い切る。
華家とはそう言うものと割り切っているイズモに、特別感じるものはない。
淡々と事実だけを述べる。
 
もっとも、皇家を相手のトラブルとなれば、生半(なまなか)ではない。
場合によっては、一族すべて極刑にされかねないほどの大罪だ。
その意味では確かに、イズモひとりの命より、重大事ではあるのだが。
 
「問題はその証明だ。『知らなかった』ということを証明するのは難しい」
 
そしてこれを問題にしようとする他家は、それを証明させたくない。
 
三輪ほどの大華家ならば、今回のことで取り潰しになる恐れはない。
だが、話を大きくして、足を引っ張ることはできる。
なんとしてでも、これを「三輪の皇家に対する不忠」問題にしたいだろう。
 
ランザンは眉間にしわを寄せたまま黙り込む。
父が求めているものを、イズモは正確に理解していた。
数秒ほど考えてから、的確な回答を出す。
 
「今回とは別件で、さらに時期をさかのぼっての勘当、でしょうか?」
 
別件で、次期をさかのぼっての勘当、それはつまり。
「事件のときイズモは、すでに三輪の者ではなかった」
と言いぬけるための工作である。
 
見えすいてはいるが、政治的には正しい判断だろう。
そのことは、誰よりイズモが理解していた。
むしろ華家に嫌気のさしていた彼には、渡りに船でもある。
 
父親は黙ってうなずいたあと、重々しく口を開いた。
 
「なにか入用なものはあるか?」
 
せめてもの親心というような、優しさからの言葉ではない。
「欲しいものは用意してやるから、早く家を出てゆけ」という意味だ。
父親の冷淡な言葉にうなずくと、「のちほど西茨城へ伝えます」と答える。
 
それから立ち上がると、お世話になりましたと、無表情で頭を下げた。
 
「あてはあるのか?」
 
ランザンが問う。
もちろん心配ではなく、「居場所を把握しておく」という散文的な理由だ。
 
「それなりには」
 
たとえ勘当された息子だとしても、大華家、三輪の関係者である。
それなりのコネクションも、金になる「身分」もある。
小華家や士家からすれば、使い勝手があるので、行き場には困らない。
 
しかしこの場合は、行き場があるという意味ではなかった。
 
「三輪に迷惑はかけないから、俺を放っておいてくれ」
 
という意思表示に近いだろう。
お互いに、相手の思うところを完璧に理解した上での会話である。
 
ランザンは三輪の当主として、長年、政治経済にかかわってきた男。
そしてイズモは、ランザンが次期当主にとまで考えていた若者である。
 
親子の情は、ほとんどないと言ってもいい代わりに。
お互いの考えに対する洞察は、間違いの挟まる余地がなかった。
 
ふたりは、そういう親子だった。
 
「身体を愛(いと)えよ」
 
最後の言葉には、若干ながら情と呼べるものがあっただろうか。
それとも、これにも何か、深い裏の意味があるのだろうか。
そんな考えをもてあそびながら、イズモは黙礼して父親の書斎を出た。
 
 
 
書斎を出たところで、酒を運んできた西茨城と鉢合わせする。
 
後ろには召女が、酒盆(ワゴン)を押してつき従っていた。
酒盆の上段には、父が好む強い蒸留酒と、珍味酒肴が置いてあある。
そしてその下段には、イズモに持ってきたのであろう、別のビンとグラス。
 
ビンのラベルを見て、「なるほど、河北の米酒か」とイズモがつぶやいた。
 
西茨城は黙って一礼したが、その口元がわずかにほころんでいる。
 
皇都の北東に位置する河北地方では、米の栽培が盛んだ。
米酒はそこで取れる醸造酒で、なかでも西茨城の選んだ酒は逸品である。
度数は弱いが、さっぱりとして飲みやすく、特に女性に好まれる。
 
ふだん飲まない自分への配慮が感じられて、思わずほほが緩んだ。
父親のように思っているこの家令と、最後の夜をすごそう。
そう思ったイズモは、西茨城へ声をかけた。
 
「父上の用が済んだら、少し時間をもらえないか?」
「もちろんでございます。ですがまずは、医務室へお運びになられた方が」
「いや、それはもういいんだ。この家で過ごすのも、今夜が最後だから」
 
短い言葉で、おおよそのなりゆきを理解した西茨城は、言葉に詰まる。
それから優秀な家令らしく、動揺を一瞬でおさめた。
 
「それでは、私の部屋でいかがでしょう。少々手狭かも知れませんが」
 
と穏やかな口調で提案した。
 
うなずいたイズモに一礼し、西茨城と召女は酒盆を持って書斎へ。
大陸の西が原産の、強い蒸留酒の蓋を開け、瑠璃のグラスに注ぐ。
その間に召女が、酒肴の仕度を手ばやく整える。
 
「それでは旦那さま、私は若さまの出立準備を、お手伝いいたしますので」
 
あとを召女に託し、西茨城は書斎の扉を開けた。
その後ろ姿へ、珍しくランザンが声をかける。
 
「西茨城、お前まさか、イズモについてゆくつもりではあるまいな?」
「わたくしは御家(おいえ)の家令でございます」
 
少ない言葉に、家令としてのプライドがこもっている。
 
「ゆるせ。お前はイズモに甘かったからな」
 
ランザンは、この男としては珍しく、疑ったことを素直にわびた。
彼にそうさせるだけの実績と能力を、西茨城は持っている。
そうでなければ、大華家の家令など、勤めることはできない。
 
西茨城は黙って頭を下げると、主人の前を辞した。
 
その背を見送り、ランザンは巨大な安楽いすの中に深々と身体をうずめた。
若い召女の酌で強い蒸留酒を飲みながら、大きくため息を吐き出す。
大華家、三輪の当主には、まだまだやらねばならない事が残っていた。
 
 
 
「やあ、これは美味い!」
 
米酒をひとくち飲んで、イズモは顔をほころばせる。
 
河北の厳しい寒さに耐えた醸造米を、丹念に仕込んだ甘口の酒は。
口に含むと、果実のようにやさしい香りが、すうっと鼻腔へ抜ける。
さらりと飲みやすいのに、しっかりと味わい深く、舌に上品な甘さを残す。
 
食間よりも食後、ゆっくりと酒本来のうまさを味わうのに適していた。
 
イズモは酒が飲めないわけではない。
 
若者らしい潔癖さで、酔って正体をなくしたり、判断を誤ることを恐れた。
それに、三輪に群がる人々を見るうち、酒に興味を持てなくなっていた。
そのせいで美味いと感じなくなり、習慣的に飲まなかっただけなのだ。
 
味が理解できないわけではなく、嫌っていたから感じなかったのである。
イズモは酒の美味さより、美味く感じる自分に驚いていた。
思わず自嘲気味に、小さくつぶやく。
 
「家を離れると決まったとたん、酒が美味いのだから皮肉なものだ」
「して若さま。御家を出て、どちらへゆかれるおつもりです?」
 
微笑みながら眺めていた西茨城が問う。
イズモは一瞬、返事に詰まった。
考えがなかったわけではなく、行き先を告げることを案じたからだ。
 
もちろん西茨城は、イズモの行方を積極的に父へ伝えることはしない。
しかし、面と向かって詰問されてしまえば、彼はこの家の家令である。
嘘をついたり黙っているわけにはゆかない。
 
イズモの表情から、それを正確に読み取った西茨城は。
笑顔のままでうなずき、イズモに詫びた。
 
「これは軽率でした。お聞きしないほうがよろしいでしょうね」
 
それから改めて座りなおすと、イズモの酒盃に酒を注ぎながら話し始める。
 
「若さま、大切な話がございます」
「あらたまって、なんだい?」
「御家を離れるのであれば、知っておいた方が良いと思われることです」
 
イズモは居住まいを正すと、「聞こう」と促(うなが)した。
 
「これから話すことは、若さまには、受け入れ難いかもしれません」
「ふむ、ただごとじゃないね」
「今までの人生観を、ひっくり返してしまうことになるやも知れません」
 
西茨城は、真剣な表情で語る。
 
「若さまは今後、三輪の名を拒否なさる……そのおつもりでしょう?」
「…………」
「であれば、この世界をもっと根底から、知って頂かなければなりません」
「根底から? それなりに勉強はしてるつもりだが、なんでまた?」
「今のままの価値観では、これから訪れる衝撃に、対抗できないからです」
「ずいぶん大げさだが、冗談ではないようだね。わかった、教えて欲しい」
 
すると西茨城はすこし表情を緩め、淡々と話し始めた。
 
「私は御家に勤める以前、ある華家の末子でした」
「華家だって? まさか!」
「ですが、放蕩(ほうとう)のあげくに勘当され、家を追われました」
 
西茨城というのは、母親方の姓なのだという。
三輪の家令になれたのも、母の家柄がそれなりだったからだろう。
イズモはびっくりして西茨城をみつめたまま、ポカンとしていた。
 
大華家の家令ともなれば、その地位は社会的にもかなり高い。
当然、その出自もしっかりした、ある程度の名家でなければならない。
西茨城もそれなりの出自だろうとは、イズモも思っていた。
 
しかし、まさか華家の出だとは。
 
華家は普通、どれだけ落ちぶれても、他家に仕えることはない。
皇家以外には仕えず、すべての華家は(タテマエでは)横並びである。
華家とは、人間として最上位の家柄なのである。
 
標準的な華家の場合、使用人を管理する職が置かれる。
たとえば家令や執事、家政婦頭などだ。
それらの管理職が、士家の出だというのは、珍しくない。
 
だが、華家の出ということは、絶対にありえない。
 
ちなみに、管理職以外の使用人は、専門機関で学んだ衆民である。
男性使用人である、従僕(じゅうぼく)や小間使(こまづかい)。
あるいは、女性使用人である、料理人、女中、子守などだ。
 
「華家? どうして華家の人間が家令に?」
「もともと家令の一族ですから」
 
イズモが問うと、西茨城は自嘲するように薄く笑った。 
その答えを聞いて、イズモの顔が驚愕にゆがむ。
 
「華家でありながら家令の一族……まさか、家司(いえのつかさ)だと?」
 
家司一族は、要するに「皇家の家令」である。
内司(うちのつかさ)が皇務を、家司が皇家内の家政をつかさどる。
彼らが仕えるのは皇家のみ。もちろん、決して他家には仕えない。
 
それどころか内司や家司は、三輪以上の大華家である。
 
「いろいろありまして」
 
西茨城は笑ってそれ以上は答えず、話を先へ進める。
そしてその話の衝撃は、イズモの想像を超えた。
 
 
 
「勘当された私は、外郭地域へ出ました」
「バカなっ! ウソだろう!?」
 
イズモは、思わず大声で叫んでしまった。
完全に想像の埒外(らちがい)であり、ありえない話だからだ。
今度の衝撃は、華家や家司といった話の比ではない。
 
外郭地域は、皇都を包む天幕(ドーム)の外である。
皇家や華家のものは、皇都を出ることを許されない。
出たものは身分をすべて剥奪され、戻ることを禁じられる。
 
西茨城の言葉が本当なら、彼は犯罪者である。
 
「警士(警邏士)をお呼びになりますか?」
 
西茨城の言葉に、唖然としていたイズモはわれに返った。
とんでもない。
西茨城はずっと自分を育ててくれた、本当の父以上の父なのだ。
 
華家を勘当されると、『準華』つまり華家に準ずるとして扱われる。
身分的には、士家とほぼ同等か、少し上ということになる。
つまり勘当されても、貴族としての地位は保たれるのだ。
 
そのため、少なくとも食べるために働く必要はない。
 
どこかの士家に転がり込めば、毎日の暮らしには困らない。
華家や準華を迎えた家には、国から扶養手当が出る。
なので、迎える側の士家も、ほとんど嫌がることはない。
 
場合によっては、むしろ喜ばれるほどだ。
 
華家や士家と言うのは、面目を保つための出費がバカにならない。
そのため準華の扶養手当は、貧乏な士家にはありがたい収入なのだ。
一般的な華家の勘当者とは、だいたいそのようだった。
 
「士家に客人として転がり込み、そのまま何もせずただ暮らしてゆく」
「…………」
「そんな生活に、当時の私は耐えられなかったのです」
 
西茨城は、自嘲気味に笑った。
 
「困難でも、己の力ひとつで生きてゆく方が、正しいと思っていました」
「それは……もちろん、その方が……」
「その当時22歳でしたが、中身はまだ子供だったのです」
 
皇都、つまり天幕(ドーム)の外に出る。
 
同じく若いイズモからしてみれば、その選択は衝撃的だった。
しかし同時に、とても勇気あるものだと思えた。
なのに彼の口調が自嘲気味だったので、不審に思って聞いてみる。
 
「西茨城の選択は、勇気があると思う。無謀かもしれないが」
「ええ、無謀もいいところでした。全く知識がありませんでしたし」
「だが覇気に満ちて、話を聞いた俺の心まで、沸き立ってくる」
 
家令は静かに笑っている。
 
「なのに、おまえ自身は、そう思ってないようだ。いったいなぜ?」
   
西茨城は笑顔を浮かべたまま、それには答えない。
慈愛に満ちた瞳で、黙ってイズモを見つめていた。
 
 
 
第四話へ続く