笑ってる?

創作サイト【神々】の日記

福井のかっくん

M109Rと言う変態的な、もとい、強烈な印象の単車があるんです。
俺も乗ってた、1800ccVツインを積むパワークルーザーなんですが、その関係で知り合った、福井在住のかっくんと言うオトコが居まして。彼とはまだ、一度しか会ったことありませんが、歳もほぼ同じだし、こんな単車を選んでる時点でバカに決まってるし、気持ちのいい男なんですよ。
とは言え、さすがに近所とは(GO以外の一般人は)言えません。
当然、よく一緒に走るってわけじゃないんです。
ところが今朝、俺の夢に彼が出てきまして。
 
続けざまに夢の話で恐縮ですが。
 
 
冷たい風が吹く、どこかのバス停。
道の駅に隣接しているため、透明なプラスティックの壁や屋根が付いた、立派なバス停である。空港のロビーにあるような立派なベンチに、男がふたり座っている。ひとりは身体が大きく、剣呑な雰囲気を醸しながらタバコを吸っている。もうひとりは、対象的なボウズ頭の小男だ。
小男は缶ビールを引っ掛けながら、大きな男に話しかける。
「かっくん、ハラぁ減らねぇ?」
「減りましたねぇ。なんか喰いますか、かみさん」
「んじゃ、道の駅でなんか適当に喰うべ」
「そっすね」
ふたりの男は立ち上がり、道の駅のレストランに向かって歩き出した。
と、そこへガラガラと荒れた声がかかる。
「ちょっと、ちょっと、お兄さんたち! 寄っていきなさいよ!」
蛍光イエローにハイビスカスを散らしたドハデなアロハシャツを着て、声の主は手招きをする。でっぷりと太った身体に乗っかった顔は、年齢どころか性別さえ判別しづらいほど、分厚い塗装、いや、化粧を施されている。脱色されて枯れ草のような髪を後ろでひっつめ、屋台の中に立っていた。
「おじ……おば……えーっと、何を売ってるの?」
かみと呼ばれた男は、相手の性別を判別する努力を放棄して聞いた。
「イナズマ焼きよ」
「おぉ、イナズマ焼きかぁ。美味そうだ」
それは何だと問いただす前に連れの男、かっくんにそう反応されたかみは、彼を振り返って尋ねる。
「イナズマ焼き? なにそれ、美味いの?」
お好み焼きみたいなもんです」
かっくんが答えると、屋台の主が頬を膨らませて反論する。
「ぜんぜん、違うわよ!」
「へぇ、まあいいや。んじゃ、それふたつ」
「まいどー!」
巨体をゆすりながら、存外に手早く正確な手つきで、屋台の主はイナズマ焼きを作り始めた。肉や野菜、ゆでタコに天カス、色んな材料を炒めながら、テッパンの空いたところでクレープのように薄い皮を作る。それから炒めた材料を集めると、そこにも小麦粉をといた液体をかけた。
「おぉ、いい匂いだ!」
かみが嬌声を上げるのを無視して、屋台の主は黙々と作業を続ける。
タマゴを割って目玉焼きをつくりつつ、すでにお好み焼きのように香ばしく焼けている材料に、ずんどうからひしゃくですくったソースをかけた。じゅうじゅうとソースの焼ける香りが漂うと、お好み焼きと目玉焼きを器用に重ねて、クレープ状の薄い小麦粉の皮でクルクルと巻き込む。
「はい、イナズマ焼き一丁あがり!」
「おぉ、ホントだ。ウマそうじゃん。珍しい食いモンだな」
「こっちじゃ普通に売ってますけどね。ああ、お先にどうぞ」
かみがイナズマ焼きにかぶりつきながら、かっくんとふたりでバカ話をしているうちに、イナズマ焼きがもうひとつが焼きあがる。ジーンズの尻ポケットから財布を出したかみは、「いくら?」と聞きながら紙幣を取り出し、「ふたつで千円よ」と答える、ぷくぷくと肥えた手のひらに渡した。
 
その瞬間。
 
紙幣を持ったかみの手首は、がっしりとしたゴツい手につかまれていた。
「よし、そこまでだ。全員、動くな!」
トレンチコートを着た黒人がそう声をかけると同時に、太った男(主はオカマだった)は屋台を蹴飛ばして黒人にぶつけ、つぎの瞬間には駆け出す。道の駅の、花壇で一杯になった公園のような部分を、太った男は身体に似合わぬ俊敏さで駆け抜けてゆく。
あっけに取られながら、それを眺めていたかみの横で、黒人が立ち上がった。
同時にかっくんが、「やばい!」と叫びながら走り出す。
「え、なにが?」
と間抜けな問いを発しながら、かみも釣られて走りだした。
花壇が迷路のように並んだ公園の中を、太った男、かっくん、かみの三人が逃げ回り、それをトレンチコートの黒人と、いつの間にか集まってきた警官隊が追い回す。やがてちょっとした隙を見つけたかみは、花壇の中に転がり込んでじっと息を潜めた。
ほどなく、目の前で太った男が捕まる。
「さーて、逃げ回ってくれたな。面倒かけるんじゃないよ」
「うるせぇ!」
しゃがれた声でそう叫ぶ太った男を無視して、トレンチコートの黒人は逮捕状らしき書類を突きつけながら、「おまえには黙秘権がある」と口上を述べ始めた。太った男は観念したのか、枯れ草色の髪の毛にガッシと手をかけ、それを一気に引き抜く。
カツラが取れて坊主頭が顔を出した。
それを見て声をひそめながら、かみは、
「なるほど、坊主頭だから間違われたのかな?」
と呑気なセリフを吐く。
するとその横で、いつの間にか一緒に身を潜めていたかっくんが首を横に振った。
「俺、ボウズじゃないですよ」
「ああ、それもそうか。ところで、なにがヤバかったの?」
「それは……」
かっくんが答えようとしたちょうどその時。
「いたぞ!」
かみとかっくんの後ろから声が上がる。
警官の一人が満足そうな笑みを浮かべながら近寄ってくるのを見て、かっくんが背中から巨大なコンバットナイフを取り出した。思いつめた、明らかに戦う気を見せるかっくんの横で、「やるのか?」と小さくつぶやきながら、かみは自分のポケットを探り、手に当たったものをつかみ出した。
開かれた手のひらには、100円玉と10円玉が数枚。
「これでやるしかないか……」
かみは決心を固め、コインを強く握り締めると、近づいてくる警官をにらみつけた。
 
 
と、ここで夢は終わるんですが、とりあえず問いたい。
 
かっくん、なにしたんだ?
あと、こんどそっちに行った時に連れてって。
イナズマ焼き喰いに。