笑ってる?

創作サイト【神々】の日記

教唆

患者さんの愚痴を聞くことが多いんですが。
愚痴や世間話の中にも、治療に必要な情報が隠されてたりすので、きちんと聞くわけですよ。例えば患者さんは関係ないと思ってて言わなかったけど、実は糖尿の気があるとか。
糖尿だと外傷の回復に倍近い時間がかかってしまうこともあるので、これを知ってるのと知らないのでは全然話が違ってきちゃうわけです。
 
んでね、そうやって話を聞いてるヒトの多くは主婦なわけですよ。人妻。ま、ひとづまって書くとムダにエロいんで主婦と書かせていただきますが、彼女たちの多くは旦那さんに不満を持ってたりします。
ところがそれを旦那さんに話しても、ほとんど聞いてないわけですよ。
でもま、これはある意味仕方ないことでして。
例外をあえて無視して言わせて貰えば、男は議論して答えを出したがるのに対し、女性は『ただ、聞いて欲しいだけ』な場合が多いからです。今日あった他愛ない話を、オチも結論も見解さえもなく、ただ漠然と報告されても、こちらとしては答えようがないわけで。
 
待合室の女性同士の会話を聞いてても、聞いてる方は相槌打ってるだけだったり、ってのはいつもなんですが、女性にとってはそれでいいんですね。お互いにあったことを報告しあうだけで、そこから議論なり意見を発展させようと言うんではないわけです。
もちろん、それはそれでストレス解消になる大事なことなんですが。
 
ところでここに、整骨院の先生と言う、39歳の男がいます。
だいたい、旦那と同じような歳の男なんですが、このヒトはただ「うんうん」と話を聞いてくれちゃいます。昔は意見を言ったりもしたようですが、今は基本的に微笑んで相槌を打つだけ。
 
ね?
いうなれば俺は、肉食獣の群れに放り込まれた草食動物ですよ。
も、「それ言っちゃっていいの?」みたいな話を、毎日、ガンガン聞かせていただけまして。おかげさまで、俺はいまや、整骨院から半径5kmくらいの範囲で最強の事情通です。
そんな俺に、今日も若い奥さんが訴えを起こされまして。
 
「先生、ウチの旦那がね、私のことを全然信じてくれないの」
「へぇ、そうなんだ」
「浮気してるんじゃないかって、いつも疑ってるのよ。歳が10離れてるから仕方ないのかもしれないけど。仕事もやめさせられちゃったし。いい加減、ヤになっちゃった」
「でも、話を聞いてると旦那さんは、『最初に疑わしいありき』みたいだから、理論的に話をしても、最初から聞いてくれないかもね」
「そうそう、そうなのよね。こっちの話なんか聞いてくれないんだもん。だから、義母さんの言うことなら聞いてくれるかなァって思うんだけど」
「どうだろうねー」
「男の人って、なんで話を聞いてくれないんだろう」
 
さすがにここで、「そりゃ、オチがなくてつまんないからじゃない?」とは言えないので、曖昧にうなずいておきます。すると彼女はヒートアップし、ついに俺を『男性代表』として責め立てはじめるんです。
ま、普段なら慣れてるから別に構わないんですが、ココ二三週間はひとりで仕事してる疲れがピークに来てまして、怒ったわけではないですが、ついつい、突っ込んでしまったんですよ、かみさん。
言ってやったんですよ。もちろんウケ狙いで。
 
「話を聞いてもらうには、自分をしっかり見てもらわなきゃならないわけだよ。だからさ、誰かに頼んだり、同じことを何度も言うんじゃなくて、包丁もって脅かしてやりゃいいんだ。命の危険に晒されりゃ、さすがに正面から相手にしてくれるでしょ」
 
 
 
いやいや、「あ、なるほど」みたいな表情はやめれ。