笑ってる?

創作サイト【神々】の日記

狼たちの雪原(邂逅編)

そゆわけで雪遊びがテラ、一兆倍遊んでどうする、雪遊びがてらダチとスキーに行ってきました。んで、どいつもコイツも人知を超えためんどくさがりなので、会うなり
「俺はオフレポ書かない」
宣言しやがりまして。仕方ないので俺が書くことにします。
 
一日目。
前の日に集合した俺とマル、ガンボにNにTの五人は、近くのジャパレンにてワンボックスを借り、夜中の12時に出発。一路長野県を目指しました。
つっても目指して運転してたのはマルで、俺は早速ビール飲んで騒いでただけですが。
残念ながら(?)特にトラブルもなく、朝の四時半ころにはとっとと目的のスキー場に到着。先に着いていたおーがの車を発見し、その横に駐車すると、ワンボックスの中で車内泊
車の大きさが充分じゃなかったと言うか、俺とマルが太ったからと言うか、車内はもうキッツキツ。大人五人がパズルのごとくおのれのスペースと睡眠ポジションを模索します。
最終的には人体でアラベスクを構成しつつ、なんとか寝りにつきました。
朝になってから、ホテルでレンタルのファンスキーやボード、カービングスキーなんかを借りまして、さて、レッツスキー!
 
 
なんかバカ吹雪。
寒いわ視界は悪いわ大変な状況ですよ?
熱伝導率の高いシルバーの馬鹿でかいぴピアスをジャラジャラぶら下げた俺の耳なんて、凍傷にかかるくらいでしたからね。言い過ぎた。プチ凍傷くらい。
んで、ゴンドラとリフトを乗り継いで頂上に着きますってーとメールが入ります。 
 
送信者:ZRZ
件名:竜王
内容:で、俺はどうすれば?
 
以上のメールに添付されている今日の日付のリフト券写真。
Zは用事で行けないとか何とか言ってて、今回のスキーの話にも、なにやら淡白な反応しか見せないから、みんな
「Zがこられないのは残念だなー。でもまあ、しょーがねーかぁ」
なんて言ってたんですよ?
なぁにフタを開けてみりゃ、一番しょーがねーのはこの男でした。
おーがか飼い主様が、彼らの愛息UKTを『子供ゲレンデ』みたいなトコで遊ばせるに違いないと踏んだこの男は、
 
1)子供ゲレンデで、そりの衝突事故
2)よく見てみれば、ぶつかったのは大人
3)さらによく見れば、それは今日来ないはずのZ
4)なんでおまえがここにいるんだー!
 
てなサプライズの脚本まで考えていたらしいです。
つーかね、彼が優秀な男だってコトを認めるのにやぶさかではないですが、その優秀な頭脳や能力を使う方向が完全に間違ってると、老婆心ながら忠告したいです俺は。
ホント、バカばっか。
ZとPちゃん襲来! の知らせに全員、大喜びの大爆笑。
人目もはばからずバカ笑いしまして、ちょっとしたサバトみたくなってます。しかも『Zは本当に用事があるから泊まらずに日帰りで帰る』と聞くに至って、爆笑は狂気を帯びつつ限界に達します。
どこから見ても完璧な、集団発狂。
そのテンションのまま頂上から滑り出せば、そりゃあまともに降りてこられる道理がありません。そのうち何をトラぶったんだかマルが見えなくなりました。
マルが行方をくらますなり、「待とうぜ。10秒」「いいマルは死んだマルだけだ」「来春、ふきのとうと一緒に顔を出すだろう」言いたい放題。
もちろんガキじゃあるまいし、本当に待つわけはありません。
とっとと滑り始めます。
が、ここで問題が発生。
このスキー場、一番上から降りてくるには、必ず上級者コースを通らなくてはならないダメ設計になってまして、今日の天候で通れるルートはCとDの二つ。
Dのスタート地点まで行くと、不思議な光景が目に飛び込んできます。いや、正確には飛び込んできません。スタート地点から見えるのは、吹雪いて鉛色をした冬の空だけ。
全員の一致した表現は、絶壁。
がけの下を覗き込んだ瞬間、我々の心の中にどこからか渋い男の声が聞こえてきます。どこかで聞いたことがあるようなそのしわがれた声は、ただヒトコトだけを、執拗に我々に語りかけてきます。
「ダメだこりゃ」
天国のイカリヤさんに言われては、我々としても強行突破は出来ません。
そこで残ったCコースに行くかくだりのゴンドラに乗るかという選択肢を突きつけられました。ゴンドラに乗るというおーがの言葉に俺の心が揺れます。
と、そのとき。
「いくぜっ!」
アニメの主人公みたいなセリフとともに飛び出したのは、南柏が世界に誇る最強のアニオタ、ガンボことガンボーイ。ヤツらしく丁寧に手入れされたアルペンボードに乗ると、粉雪を蹴立てて滑り出します。
その後姿が俺の心に語りかけてきました。
「選ぶのはおまえだ」
瞬間、俺の身体に電光が走りました。男の背中が語りかけるというやつでしょうか。正確にはクソ寒くてもうどうでもよくなってきたので、やけっぱちでガンボの後を追います。
今日はじめてファンスキー履いたのに、いきなり難易度Eの上級者コース。
そのときの俺には、一面の銀世界が『精神と時の部屋』にしか見えませんでしたよマジで。みんな、待ってろ。オラが必ず助けるっ! ってなもんです。
むしろ助けて欲しいのはこっちなんですが。
Cコースに入ってしばらくはたいした傾斜もなく、これならむしろ楽しいくらい。
なんて余裕こいてると、いきなりカントがキツくなり「あーヤベえかなぁ」つぶやくまもなく、突然、コースがむちゃくちゃ細くなります。
右手に崖、左手に山。リアルイライラ棒かって話ですよ。
右に行っちゃえば、終わるのはゲームじゃなくて人生ですけど。
むしろ永遠にイライラのない世界にいけるわけですが、さしあたりあっち側には用事もないので、ビクビクしながら慎重にコースを進みます。
やがて目の前に開けるだだっ広いゲレンデ。ようやく苦行は終わりですか。なんだ、今度はやけに広々してるし、誰もいないし、すごく素敵じゃないですか。
斜度以外は。
粉雪と風のおかげで凹凸が見えないため、仕方なくゴーグルをはずした俺は、先を行くガンボの背中を追って地獄へダイブしました。
とたんに凍りつくまつげと、その上に積もる雪。吐いた息はもうもうとして、肺の中が沸騰してるんじゃないかと疑いたくなるくらい。
気分はプチ遭難☆
汗をだらだらかきながら、ひいひい悲鳴を上げつつ絶壁を下り続けるさまは、100倍重力にも耐えられそうな表情だったでしょう。
いくらかカントがゆるくなってきたころには、こちの足回りは廃車寸前。
まるで自分の意思を持っているかのように、俺の希望とは無関係にあっちこっちへ行きたがるファンスキー。つーか後500メータこのコースが続いたら、「やあ、マイケル」とか言い出しかねませんでしたね、あのスキー板。
板にも膝にも裏切られながら、ほうほうの体でようやくふもとのレストハウスに着いたときにはガンボが宇宙人に拉致されて、目の前からいなくなってました。
ま、普通に俺が遅かっただけですが。
でもまあ、せっかくに一緒に行っておきながら、結局バラバラなのはいつものことですから、気にすることもありません。一応メール入れたり電話入れて捜索終了。
Zたちとレストハウスで合流を果たし、バカ話に興じます。
当然、俺の右手には生ビール。
おーがの妹が近くまで来たついでに寄るって言うんで、彼女とその友達とも合流し、関西人の細かく的確な突込みに酔いしれた俺は、結局4杯のナマを空けました。ええ、そのとおり。酔いしれたのは飲みすぎだから。
一息ついたらまたゲレンデに。
さて、こんどこそのんびり楽しく、ファンスキーの練習を……
「かみ先生。一番上まで行きましょうよ」
Zのヤツ、俺を殺す依頼を受けたらしいです。
たぶん依頼主はうわばん。
もっとも、ここでNOと言う選択肢など俺は持ってません。
『俺のスキーは後退のネジをはずしてるんだよby愚地独歩』、状態でうなずくと、さっきあれほど「二度と行くもんか」と誓ったCコースに向かって、俺はウインクして見せます。
膝は揺れてましたが。
4秒後には後悔にさいなまれ、背中を丸めてトボトボ歩きになりながらZとともに一路Cコース。
で、このZがまたウマイのなんの。おんなじファンスキーなんですが、俺と彼では最新レーサーレプリカと中古のV-MAXばりに足回りに差があります。
あいつ絶対、膝にビルシュタインかオーリンスが入ってる。
さっきのガンボも速かったんですが、Zの速さはさらに上を行ってました。おまけにこの男、ストックを持たないファンスキーの利点を最大限に生かし、片手にビデオカメラを持って滑ってるんです。
日ごろビッグマウスな俺様もカメラに向かってギャグをやってる余裕はさすがになく、むしろカメラを意識して転ぶから撮らないでくれーとか泣き言まで言ってました。ヘタレとでも何とでも言え。
日ごろ使ってない足腰は完全にギブアップ状態で、コース終盤には走馬灯が見えました。向こうで手を振るあのヒトは、もしかしたら死んだ親父だったかもしれません。
いい加減ヨタヨタになりながら戻りまして。
昼くらいで帰ると言ってたZとはこれで別れです。さてそれじゃあ一度ホテルに行ってチェックインを済ませてから、ゆっくり風呂でも入って、その後もう一回すべるかどうか決めようか。
と。
Zが意気揚々とやってきます。
「Pはレストハウスで休みながら、Nとかと居るらしいんでもう少し滑りましょう」
ガンボやマルもニコニコ笑ってます。おー!そりゃいいや。それじゃあ滑ろうかなんて、先ほどまで休む気満々だった記憶は一瞬にして雪山の向こうへ。お調子者の本領発揮ですな。
そして愛息UKTの相手をおーがと交代した飼い主様、やる気満々で瞳を輝かせてます。その顔を見た瞬間、俺の中の見えない何かが、そっと背中を押しました。
俺は飼い主様に向き直ると満面の笑みを浮かべて叫びます。
「せっかくだから一番てっぺんまで行こうよ! すげえコースがあるんだ」
誰でもいいです、この性格を治す薬をください。
ゴンドラから降りたとき、すでに膝が揺れてるんですからね。
もともと大して上手くもないのに、地獄めぐり三回目。しかも自己申告。
例の『右手にガケ』を必死で乗り越えまして、次の難所の上で「鵯越(ひよどりごえ)ってこんな感じなのかなぁ……」とか切なく日本史に思いを寄せていると、上のほうから聞こえてくる飼い主様の声。
「なにこのコース。アホやっ! 誰やこんなん作ったのっ!」
ええ、その意見、全面的に支持します。
すーっと近寄ってきた飼い主様、俺やマル、Zの前で止まりきれずにゴロゴロ!
「あ、やべぇ。谷に落ちる。誰かとめてやれ」
俺が言うのとZが
「おぉ! さすが関西人!」
などとアサッテな感心をしてるのがほぼ同時だったでしょうか。
なんとか転がり落ちるのを防いだ飼い主様は、満面の笑みで立ち上がりますと、自分のこけ方に自分でダメ出ししてました。『面白(おもん)ない』そうです。
おーがはこの子に会えたコトで、人生の幸運のほとんどを使い果たしたんじゃないかなと思いますよマジ。
この難所も越えて、ゆるい一般ゲレンデが見えたところで、油断したんでしょう。
俺も思いっきり大転倒しまして、いや、それまでもコケまくってたんですが、思いっクソ膝をひねりました。
自己診断では内側膝蓋支帯損傷。
わかったからってその場で治る訳じゃない。
それでも三度の無謀は俺のスキルを少しアップさせてくれたようで、初中級コースではずいぶんと操れるようになりました。
でも、ついさっきCコース終わり際に「いやー膝がガクガクですよー」なんて言ってたZが、緩斜面に入るなり、ものすげえ余裕ぶっこいて、片足とか後ろ向きとかで滑ってくのを見たときは
「ウソツキー!」
って吼えましたけどね。
 
宿に着き、ZやPちゃんとダベったり風呂に入ってから、泊まらずに帰るというふたりを送り出した我々は、夕食の待つホテルのレストランに向かいます。
しかし、食べ放題バイキングという言葉の持つ意味を、そのときの俺はまったく理解していませんでした。
このシステムは、ある男の獣を起こしてしまったのです。
男の名はおーが。
ひたすらエビフライだけを載せた皿を席に置いた彼は、同様にほかのものも同種類づつ大量に皿に盛って帰ってきます。どうやら『品』と『皿』を取り違えているようですね。
つまり一般的には『これを一つ、あれを一つ』と皿に盛るところを『これを一皿、アレをひと皿』と考えているわけですこの男。
しかし壮絶な勘違いを指摘するヒマもなく、いただきますの声と同時に、獣は走り出しました。おーがにとっては普通のスタートなんでしょうが、ふつうの人類的には全力疾走で。
俺らが集まって唯一バカ話をしない時間。
それが食事の時間なんだということを、マルに指摘されて改めて実感しました。おしゃべり番長の俺を筆頭に、モクモクと食べ続けるそのすがたは、厳粛ささえたたえた聖なる儀式の様相です。
やがて腹の膨れた俺は、ようやく周りを見渡す余裕が出てきました。見ればガンボもマルもNもTも食後のコーヒーに漕ぎ着けている中で、おーがと飼い主さまだけは延々と喰い続けます。
『喰う→立ってとりに行く』の無限ルーティン。
見てるほうが気持ち悪くなるほど食った後、おーがの動きが止まります。ようやく喰い終わったかと胸をなでおろしてる我々の気も知らず、この男、おもむろにぬうっと立ち上がりざま、ジュースとデザートを取りに行きました。
呆気にとられながら「まだ喰うのか」とつぶやくと飼い主様、ニコニコしながら
「あーでも、さすがにあと500gくらいだろうねぇ」
それは一般人の一食分の重さですよー。
おーがの前だけ、回転寿司みたいに皿の山が出来たところで夕食終了。
 
動きたくなくなるほど夕食を無駄に食い尽くした我々は(『我々』と言うところに異論のある人間もいるでしょうが)部屋に戻って宴会に突入します。
といっても疲労困憊気味の面々。
レストランで泥酔者のごとくぶっ倒れたUKTを筆頭に、部屋に着くなりガンボ、マル、Tと次々討ち死にしてゆきます。一部屋で全員ザコ寝の状態なので、まさに戦場の医療施設のごとき様相。
部屋の扉に赤十字のマークがあっても違和感はないでしょう。
そんな中、俺とN、飼い主様は酒盛りを始めました。おーがもお茶で参加します。ビール、日本酒、焼酎、バーボンとそれぞれの酒(およびお茶)を片手に、いつまでもバカ話は終わりません。
何が楽しいって、たくさん話してふと我に帰り
「あれ? 今何時? もう寝ないとまずいかな」
言いながら確認すると、まだまだ宵の口にも満たない時刻。
こんなときの喜びと『得した感』はなんて表現すればいいんでしょう。時刻の早さに元気付けられ気分もリセット、またも延々バカ話の繰り返し。
うるさくて寝られないんでしょう、マルやガンボも時々起きては、各々得意の話題、興味のある話題のときだけ、らんらんと目を輝かせて話に加わります。
興味がない話だとスイッチが切れて爆睡、ってところはわかりやすくていいですね。
しかしさすがに時間が進むにつれ討死者の数は増えてゆき、最終的には俺とおーがのふたりが、飽きることなくくっちゃべり倒します。
PC、バイク、格闘技、武器に音楽に生き方まで、無駄に興味のかぶりまくってる上に、ふたりとも『楽しいことがあるとしんどくても寝ない』という幼児並みのメンタリティですからね。
その盛り上がりは推して知るべし。
途中、飼い主様が半分寝ながら起きてきては、おーがに甘えるシーンなんかもあり、たくましいイメージがあるけど飼い主様も女の子なんだなぁ、かわいいなぁと、微笑ましく見守ってました。
寝ぼけながら抱きつき、そのまま袈裟固めに極めて、あまつさえ関節までも極めようとするのが、『甘えてる』と言えるかどうかはともかく。つーかほとんど寝てるくせに、無駄にきっちり極めすぎだあんた。
結局そんな状態のまま、朝六時までしゃべり倒した俺とおーが。
さすがにきつくなってきて「んじゃ、寝るべか」と布団に入ったはいいんですが、俺も変なテンションになっちゃってるもんで
「なあ、おーが。おめークラスに好きな子いるか?」
「なはは。おるでー!」
とか修学旅行ごっこをはじめたり、寝付くまでにさらに何十分かを要します。もうこうなると身体がどうのとかよりも、『いかに受けるかバトル』を制するための意地ですね。
いいから早く寝ろよどっちも。
 
二日目に続く