笑ってる?

創作サイト【神々】の日記

バロン

まあ、そこそこコンスタントに物語を書いているところから考察されればご理解できると思いますが、俺は話を大きくする癖があります。


話しているうちに、当社比20%くらいは膨らんじゃうんですね。エンターテイナーなんで。ホラ吹きとも言う。


そんな俺が言うのもナンなんですが、高校の頃の友達にバロンって言うあだ名の男がいました。ええ、その通り。ホラ吹き男爵から来てるわけですが。


こいつがまた、言ってることの何割が本当なんだろうってくらい、日常的にウソをつきましてね。今思うに、見栄っ張りだったんですな。音楽のこと、ケンカの事、女の事。それ全部本当だったら、普通に映画の中のヒーローだよお前、てくらい。


高校出てからしばらくは付き合ってたんですが、俺が北千住の整骨院に住み込みで働き始めてからは、全然会わなくなってました。んで、ヤツのお母さんには結構お世話になったんで、整骨師の免許を取ったときに、連絡したんですよ。


よかったねぇ、なんて我が子のことのように喜んでくれまして。それから、ヤツがどうしてるか近況を聞くと、なんでもどこだかの料理学校に通っているとか何とか。


ほほう、ヤツは料理人としての道を歩み始めたか、なんて感心しながら、そのときは電話を切ったんです。それからしばらくして、向こうから電話が来ました。


「おう、かみ。久しぶり。この間電話くれたんだって?」
「おう、整骨師の免許取れたから、おめーんとこの母さんに報告しとこうと思ってな。半分、俺のお袋みたいなもんだからよ」
「ははは、お前みたいな息子は、いらないと思うぞ?」
「やかましい。つーか、どうした? それでわざわざ電話くれたのか?」
「うん……それもあるんだけど……おまえさ……」
「なんだ? 歯切れが悪いな? 金でも貸せってか?」
「そうじゃなくて……友達のよしみで、お前にも儲けさせてやろうと思って」



そう、ちょうどこの頃ですよ。ねずみ講の走りみたいなのが出始めたのが。もね、なんだか悲しくなっちゃって、俺は受話器を持ちながら、片手でバーボンをがぶ飲みします。この頃はそう言う呑み方をしてたんで。


バロンはバロンの面目躍如とばかりに、ものすげえ景気のいい話をしてます。ちょうどバブル全盛期ですからね。同級生の女の子が、証券会社に入って最初のボーナスで100万とかもらってた時代ですよ。


俺も数学は弱いほうですが、バロンは俺に輪をかけてダメ。それが一生懸命いろんな数字を出して、必死に俺を説得にかかるんです。悲しい思いで全部聞いてから、俺は静かに断りました。


ヤツは人が変わったように罵詈雑言を浴びせて電話を切ります。やりきれなくて、ごぶりとバーボンのボトルを傾けてから、俺はヤツの母親に電話して、一部始終を語りました。


母親は驚き、嘆き、悲しんで、最後に消えそうな声で「かみ君、ありがとね?」と言い残し、電話を切りました。母親にあんな声を出させちゃいけないな、と心にしみまして、それ以来、マメに母親に電話するようになりましたよ。


あれから、音沙汰はありません。
今でも、俺のやったことが間違っているとは思いませんが、ただ、母親に連絡する前にもう少し説得の方法があったんじゃないかな、って言う後悔は、今でも少し持ってます。


 


今月、親父の命日があるんで、そこから連想して母親のことを思い、あのときのバロンの母親の声を思い出した、そんなただの昔話です。


お耳汚し御容赦。