笑ってる?

創作サイト【神々】の日記

ちょっとづつ

noreturnrydeen2005-03-22

「先生、俺、最近踏み外してるかもしれないです」
いきなり、まこと*1が言います。
「なにが? ヒトとして? それはわりと最初からだと思うが?」
「そでなくて、治療家としてつーか……」
「どういう風に?」
「前は、患者さんの生活環境を考えて、怪我の程度と治療の基本を考えて、『この生活習慣だと、いくらここだけ治療してもダメだから、ここも一緒に治療しながら、少なくとも生活習慣のここを変えてもらおう』とか考えてたんですよ」
「うむ、俺の考え方に合致するな。いい治療家だ。よく育った。むしろよく育てた。さすが俺」
「まじめに聞いてくださいよ」
「わりわり。んで?」
「でも、最近は、いくら気をつけても、気づくとそこに『俺の技術と知識なら、これは、このくらいの期間で治せなきゃダメだ』ってのが入ってきちゃうんですよ」
「なんで? いいじゃねーか。正しい姿勢だろう?」
「いや、それって結局、患者さんのことじゃなくて、自分を主とした見方じゃないですか? 俺、最近、治そうって言うよりも、俺なら治せるはずだって言う方向に、ものを考えるようになってて、治療家としてはどうかなぁと思うんです」
「出来そうで、出来ないのが、もどかしいか?」
「はい」
「ま、基本的には、経験を積み重ねてってことなんだろうけど、でもな。俺は、そうやって悩んで、結局、積み重ねて結果を出せるようになって来た。でも、それが正しいかはわからないんだよ、俺も。だから、もし積み重ねる以外の方法を探すなら、俺は止めない。俺とは違った方法で、『結果を出す』という結果にたどり着けるなら、それがまことって治療家のスタイルつーか、骨格になるんだろう」
「でも……その間、トライアンドエラーになることもあるじゃないですか? 先生、いつも言ってるでしょう? 俺たちの仕事は、トライアンドエラーじゃダメなんだ。患者さんは、実験材料じゃないって。だから俺、どうしたらいいんだろうって……」
  
すげえ嬉しかった。
気づけばまことも、いっぱしの治療家になってるんだなぁ。
も、確実に俺様の人徳、指導力、人間的魅力の賜物(たまもの)だね。ちがうね。
 
「ばーか、おめ。それでいいんだよ。いや、トライアンドエラーを肯定するんじゃなくて、おめーの姿勢そのものの話な? 基本としては『患者さんのために』って気持ちがあって、その上で、自分の技術と知識、経験に対して、自負と自信、不安や不満が出てきたんだってコトなんだからよ。ただ天狗になるんじゃなくて、そうやってまずいなぁって自分に対する疑問ももてるんだ。間違いない。そのまま進んでいけばいいよ。自信持て」
「そうですか……う〜ん」
「ま、俺が答え用意したって、自分で納得できなくちゃ、意味がないからな。つーかよ、俺だっていまだに、悩みはあるんだ。おめーに簡単に答えだされちゃ、俺の立つ瀬がない」
「はい」
「あのな? 自信と自負は凄く大事だ。おめーを信じて身体を任せてくれる、患者さんに対して、それを持ってないのは失礼だからな。そんでまた、不安とか疑問を持つのも大事だ。それを、勉強と努力で、少しづつでも自信に変えていかなくちゃな? この道ぁ、一生勉強したって足りないと思うぜ、俺ぁ」
まこと、俺の顔をじっと見たあと。
「こういう話のときは、ほんとに尊敬しますよ。俺様とか言いながら、きちんと結果出して、その上でこういう話を突然ふられても、すぐ、信念を語れるんですから」
「やめろ、照れくせぇ」
「これで、プライベートの方が、もう少しどうにかなれば……」
「やかましい。プライベートなんぞクズでも、治療家は治療結果が出せればいいのだ」
「まー正しいとは思うんだけど、なんて言うんですか。三連休の間中、一度もシラフじゃなかったなんて話を聞くと……」
「あ、まこと。ほら見てごらん。梅がきれいに咲いたねぇ……」
 
写真が、その梅です。

*1:整骨院の若い衆